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       1990年6月21日新潟県立小出高等学校で「高教研"美術・工芸"全県研究会」が開かれていて、私は、そこで「モヤシ」の授業をしていた。 約60名の高校の先生達が生徒である。 
        「モヤシ」は何のために描くのかを話をして、根っこ、くき、まめ、葉と描き方の説明をしていった。描き方の説明とは、そのものがどうなっているかの説明と同じである。 
        「葉っぱとは葉脈があって、まん中に一本通っていて、左右、斜め上に広がる。そして、そのような葉脈の葉は、双子葉植物といって、必ず双葉で出るんです」 
         私は、なめらかに説明する。 
         「スズランとか露草の葉は、葉脈が横に広がっていなくて、一点に集中します。これは単子葉植物といって、一つ葉ででます」 
         自分では確かめたことはないはずなのに、私の頭の中には、モヤシは双葉の芽がでるイメージがはっきり浮かぶ。 
         誰かが教えてくれて、「なるほど」と感心し、自分のものにしてしまったのだ。 
         「モヤシの双葉は、まず一枚の葉がまん中に通っている葉脈を中心に、半分に析れていて、こんなふうに重なっていまして、従って、まずは真ん中の葉脈から描いて」と説明した。 
         突然、後ろの方の席の女性から呼ばれた。「は−い」私は急いでその方の席へ行く。 
         「私のモヤシの葉、こうでも(A )なく、こうでも(B )なくて(Cの図)のようになっているような気がします。私のだけ特別かもしれません」 
         「えっ」私は驚いて「ちょっと調べるわね」と自分の席に戻り、モヤシの葉をとりあげ点検してみた。やはり二枚の葉は交互に接合されている。 
         「やっばりそうですよ。あなたの言うように双葉は交互に重なっています。知らなかったわ−」と興奮した。 
         
         「今まで、モヤシの授業を10年以上やってきて、知らなかったわ。今日、あなた大発見したのね。お名前は?」 
        「いいえ、結構です」と彼女は手をふり、ことわった。 
         私は久々に興審しまくった。なぜ10年以上も、こんなことに気づかなかったのか。 
         「スゴイ、スゴイ。モヤシの葉はこんなふうに重なっていたのか」 
        
       
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