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毎月第三土、日曜日は、岡山と広島に出かけている。 広島のいつも泊まっているホテルは満室で、時刻表に載っていた「ホテル・サンバレス」に泊まることにした。 旅仕事を気持ちよく続けるには、泊まる"宿"が大きくウエートを占める。お気に入りのホテルのある街は仕事に行きたくなる。 ホテル・サンバレスー初めてのホテル。お値段から察して期待できそうもない。それでなくても、広島でのホテルはついてない。 忘れもしない、初めて広島で泊まったのは"ステーションホテル"で四千八百円の部屋。三昼くらいの部屋で、体を横にしないとベットヘ行けない。窓の外はビルの壁。ベットの上に、壁から突き出ている棚に乗ったテレビ。ベットに横になるにはテレビの下にもぐり込むような恰好になる。もちろんスタンドなどない。この狭い部屋で出来ることと言えば、テレビを見ることぐらいしか思いつかないくらいの部屋だった。 しょうがなく、テレビのスイッチを入れたら、イタリヤの映画、フェリー二の「道」を放映していた。これがなつかしい映画だったので、少しだけ、このホテルに泊まることにした後悔が薄れた気がした。 それからは、広島へ仕事にいくと、広島から二時間強、汽車に乗り三次市に行き"アート・ホテル"に泊まるようにしていた。そこにはジャコメッティの彫刻があった。しかしそのホテルも今はない。 |
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翌朝、十時にチェックアウト。フロントは別の男性。昨夜の人より親切そう。ふとロビーの外を見たら、目の前が公園。公園の向こうは川。 外はくもり。公園には高校生四人。公園のブランコに乗る。コンクリートのベンチで昨日もらった、たくさんのチラシに目を通しながら、ぼんやりしていた。 自転車のおじさんが通りかかる。 「キーッ」とブレーキをかけて、私の前に止まる。 「あんた、美人やね」ろれつが上手くまわらなそう。酔っぱらいかな?目が濁っている。 「どっから来たんかね?」 「東京です」 「フーン、関東か」 それでサヨナラと言ってほしかった。 ところが又言う。 「あんた美人やね」絡みつくような目付き。落ち着いて考えれば、私を美人だと言ってくれてるのだから、まともなはずがない。ちょっと危ない人かもしれない。 〔ヤバイ〕 「ハイありがとうございます」と言っても声にはりがでない。 おじさんは私の顔をじっと見つめる。 〔ヤバイ公園には他に人はいない〕 おじさんは、おもむろに背広の胸を開いた。 〔ますますヤバイ〕 ところがそのワイシャツには、赤いボタンの花が墨のリンカク線の中に、左右腕いっぱいに描かれてあった。 おじさんは低い声で言う。 「わしが描いたんじゃ」 「えっ、あなたが描いたんですか! スゴーイじゃないですか。フー!あなたの絵なんだ」と歓声をあげてしまった。 おじさんの顔が明るくなった。そして大きく額く。それと同時に、軽やかにペダルを踏んで、少年のように立ち去った。 「ザマーミロ」と言っているような後ろ姿だった。 「街角のさびしい貴族たち」私は思わずつぷやいていた。 今までの方法で絵が描ける私の仲間たちを、私は密かにこう名づけている。 |
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