○勢いで描ける植物の発見
その頃、長谷川等自の障壁画「桜図」を智積院に見にいった。桜の木には感動しなかったけれど「松に黄萄奏図」という、松の木の下に秋の草花が描いてあって、その中にススキが描かれていた。
「あっ、ススキは推でも描けそうなテーマだ」と思った。
月見の友、ススキを知らない人は少ないし、どこでも気軽に手に入りそうだ。私の住む町には、駅の近くがススキ野原だった。
私は多摩川の土手の近くに二十年近く住んでいたので、秋には川原がススキで枯れ色に染まる。その色がなんとも言えない良い色で、ふるさと北海道の色だなと思う。ススキの季節には、土手に上がっていつまでも眺めていた。
夜の多摩川のススキ野原では、酒乱の夫から逃げて、よく隠れたものだ。背丈を越えるススキは、身を隠すのには絶好だった。
一度は、赤ん坊を抱いたまま逃げて、つかまりそうになったので、ススキ野原に、赤ん坊を投げ捨て逃げた。ススキ野原はクッションになってくれるという安心感があった。
私はススキの匂いと、おふとんの匂いと、似ているような気がする。
さっそく東京に帰って、当時、水道橋の仮説会館でおこなっていた絵の講座で実験してもらった。生徒さんのほとんどは教師。
ススキは、背の高い植物だ。そして茎も太い。草花は小筆で描くという範囲をこえる。中筆で、いそいで下から上ヘ、ぐんぐん描かなければ、ススキの穂を描くところへ行きつかない。
茎を描き、穂は小筆でフサフサをくり返す。葉は大筆でエイッと勢いだけで描く。大人の生徒達は、穂を何本も描かなければ、ススキらしくないので「くたびれるテーマだ。同じ事のくり返しだからつまらない」という感想だった。
でも、やはりススキは魅力的だ。人間の背丈ほどもある草花ってめったにないし、神経質に小筆で描かなくていい草花って貴重だ。
その頃『音楽広場』に連載をしていた。幼児から小学校低学年の子ども違が絵を描いていく過程を、たくさんのカラー写真と私の文で構成されていた。
大人には好まれなかったススキだが、もう一度、子ども達にためしてみようと思った。子どもって、くり返しが好きだから、もしかしたら、子ども向きのテーマかもしれない。
やってみた結果、大成功。
特にススキの穂を「こっちに行こう」とか「ダーダーダー」とか穂の向きを自分勝手な方向に、フサフサフサのくり返しでどんどん描いていく面白くて、どんどん穂が伸びちゃって、やめられなくなった子もいた。
私が小さい頃、弟と部星の壁に、戦争ゴッコのらくがきをした。あの感じに近い。陣地を決めて、そこから発射する飛行機や機関銃のさまを描くように・・・。
子どもが喜んで、大人がつらいテーマの発見であった。
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