インド
インドに入って六日目。カジュラホ村に行った。
それまでの五日間は、人人人、ほこり、汗、音、異文化、物売り、物乞いにかこまれ、一人でボンヤリするスキ間がなかったが、カジュラホ村は、空気がきれいで緑がいっぱい。ブーゲンビリアが咲き、風がここちよい。
日光浴には最適だった。久しぶりにヴィシュワナータ寺院で昼寝をした。セクシーな彫刻のレリーフのある寺院。
そこで、ジュルカ・ティワリ氏と知り合う。ティワリ家に毎夜、手作りの料理をごちそうになり、 二日目は息子さんの四歳の誕生日で、ティワリ家の親類が集まった。
その中にいた、ジュルカ夫人の妹さんを紹介された。一目で気が合う。それもそのはず、インドの美大を出て、今は絵画教室の助手をしているとのこと。
誕生パーティーで、ワイワイガヤガヤとうかれている時なので、キミ子方式の話はできなかった。
ティワリ夫婦の結婚式の写真を見せてもらたり、ジュルカ夫人は私のヒタイに赤丸のポットウをつけてくれ、妹さんは、自分の腕に三つしていたブレスレッドを一つくれた。
インド最後の地は、南のマドラス。そのあたりは旅慣れてきたのと、南インドののどかさと、そこでガイドをしてくれたセリアさんと気があった。
バスに乗っての市内観光。バスの席は、男と女が真ん中の通路をはさんで左右にわかれる。ぎっしりつまったバスの中で、キップ売りの車掌さんに遠い人は人伝いに切符代が渡され、きちんと車掌さんに届く。そしてキップとおつりが、今の逆の流れで人から人へと渡り、本人に届く。戦争中のバケツリレーのようだ。決して大声をあげたりはしない。窓ガラスのないオンボロバスのエンジン音で、人の声は伝わらない。
バスの外にも、たくさんの人がぶらさがっていて、かっこいい乗り方のようだ。外にぶらさがる人は両手を自由にしなくちゃならないので、あらかじめ荷物は、座席に座っている人に持ってもらうよう頼むのだ。友人でも親戚でなくても、みんな信用しあっているのが見ていてたのしかった。
マハーバリプラムは、石、石、石、で出来ている寺院。寺院の近くではあちこちから石を彫るノミの音が聞こえる。「黒みかげ石だ」なんて、彫刻科の学生時代を思い出す。
ふと、案内してくているセリアさんに、絵を教えようという気になった。色づくりだけでもいいではないか。
「すべての色が赤、青、黄色で出来ているのよ」という私の話に、関心し「インドにもスクールをつくったら」と言ってくれたのに「さあ、描きましょう」とスケッチブックやパレットを出しはじめたら
「No!No!」と大きな黒い身体をよじって、真剣に逃げ出してしまった。
あまりにも真剣な拒否のポーズに殺人鬼のような顔になっちゃてるんだろうかと不安になり、彼らには、もっと傍らにいてほしいから、絵を教えるのをあきらめた。
|