テレビ取材顛末記

似顔絵も〈鼻〉から描くと  松本一郎


TBS〈6チャンネル〉 毎週水曜日 18:55~放映
〈あったか生活 秘伝 カテイの魔法〉

一本の電話が・・・・

 まだ、梅雨も残る六月末、キミコ・プラン・ドウに電話が入りました。
 「私、毎日放送の番組制作を担当している者ですが、夏休みに、絵が苦手な子どもを対象にして、これなら上手に描ける方法として、貴社の行なっているキミ子方式で企画をと考えているのですが・・・」という問い合わせがありました。企画の主旨は、似顔絵を描いてもらって、教える前と教えた後の絵を比べて、こんなに上手に描けましたと紹介したいということでした。
 それから、しばらくして、制作会社のスタッフから「一度、お会いして話を伺いたい」と連絡がありました。夕方に現れた青年は板垣さんといい、今回の取材の目的は、毎週水曜日にTBS(六チャンネル)の夕方六時五十五分からの一時間番組「あったか生活 秘伝 カテイの魔法」という情報バラエティー番組で、この番組は、家庭の中の問題や、知ってると得する情報をその道の専門家が教えて、解決していくという内容で、今回、絵の苦手な子どもに、似顔絵の描き方を教えて、見違えるように上手に描けるようになるか? という企画なのだと説明を受けました。絵が苦手な人が描けるようになるのがキミ子方式だから「それは大丈夫ですよ」と答えたのですが、それを証明する作品がありません。
 担当者の板垣さんも「教える前の作品と、教えた後の作品はないのですか?」と聞かれましたが、ウチには教えた後の作品しかないのです。そこへ、近所に住んでいる小学校二年生の生徒の平尾君が「家に帰ったら、鍵がかかってた」と事務所をたずねてきました。実際に子どもが描く似顔絵、それも教える前の作品と、教えた後の作品が欲しいと思っていたときの偶然の来客に、飛んで火に入る・・・ではないけれど、平尾君に似顔絵を描いてもらおうと考えました。やはり、本を見せながら解説するよりも、目の前で描く作品を見てもらうのが一番ですから。
 最初に、なにも教えないで板垣さんをモデルに自由に似顔絵を描きました。その後で、ボクが鼻から描く説明をして、描いてもらいました。でき上がった作品は、やはり違って、鼻から描いた似顔絵はまるで中学生が描いた作品のようです。その両方の作品を持って、板垣さんは帰って行きました。

     

もう一度、実験したい

 それから一週間後に「前に描いた平尾君の作品を上司に見せて説明したんですけど、今度は、私の会社に親子を何組か集めますので、もう一度、似顔絵を教えてくれませんか」と、板垣さんから電話がありました。
 やはり、一人の作品(それも駒場の生徒)の作品だけでは、まだ説得に欠けるようでした。そこで、七月中旬に、番組の制作会社に六組の親子が集まって、子どもさんがお母さんの顔を、何も教えないで描いた後に、キミ子方式で似顔絵を描いてもらいました。やはり、教える前と教えた後では、同じ子どもが描いたとは思えない位に上手に描けていました。そして、なにがおもしろかったかというと、似顔絵を描いてもらっているお母さん達が、我が子が描いている似顔絵にビックリしている様子でした。描き方を変えるだけでこんなにも絵が変わるのかと、本当に驚いていました。そして、その様子を見ていた板垣さんも、これなら大丈夫と確信したようでした。


 いよいよ、収録

 放映のスケジュールが決まっていて、それに合わせての収録ですから、だんだんと期日が迫ってきました。今度は実際にモデルになっていただく家庭に、制作スタッフと共にお邪魔して、実際にお母さんをモデルに小学六年生の息子さんが似顔絵を描く収録が、八月八日に決まりました。
 都内にあるその家に、制作スタッフの板垣さんと、カメラマンさんと助手さん、制作スタッフ三人にボクと七名でお邪魔して、事前に頂いていた台本の進行通りに撮影をしていきます。細かい撮り直しや、ちょっとした事でもあると、また撮り直しをくり返して、朝九時からの撮影も夕方六時まで続き、ボクの分は撮リ終わったのでと一人先に帰ったのですが、ボク以外の人達は、夜遅くまで撮り直したりしていたそうです。
 その帰り際に、板垣さんから「講師の方の紹介シーンをどうしようか考えているのです。ボクの構想では、一枚の画用紙に、松本さんが立っている風景の絵を描く過程をカメラで撮って、その絵ができ上がったと同時に実写に変わってカメラが松本さんに寄っていって、アップになるというシーンを考えているのですが・・・」と相談されました。それを聞いて「ボクは絵を教える人で、描く人じゃないから、風景画を描くのはやめようよ~」と言ったんですけど、笑って聞き入れてくれませんでした。そして、次の収録は、講師の登場シーンとキミコ・プラン・ドウの教室風景で、後日、またスケジュールを打ち合わせましょうということになりました。



 風景画を描く

 講師の登場シーンは、キミコ・プラン・ドウの近くにある駒場公園に決まり、当初予定していた日が、雨だったために、八月十九日に決まりました。
 その日は朝から、雨が降ったり止んだりの天気、それでもスケジュールも詰まっているので、駒場公園に制作スタッフが集合して、午前中は登場シーンの撮影です。丁度、雨も止んだタイミングを見計らって、なんとか撮影を終えて、午後から、教室で夏の講座で集まっている人たちが絵を描いているシーンを撮り、また似顔絵を描く子どもさんの家庭にお邪魔して、撮り直しや撮り忘れていたシーンを撮り、キミコ・プラン・ドウに戻ったのは夕方です。
 夕方五時から、いよいよ駒場公園で、ボクが立っている風景をボクが描くことになりました。カメラで撮ったシーンの一カットを写真にしてもらって、それを見ながら描いて行きます。スケッチブックを置いた机の上にはカメラが設置され、机の前にはモニターが置かれ、照明が机を照らします。その中で風景画を描いていくのですが、普段、絵を教えるだけなので、自分で描くのにはやはりプレッシャーを感じます。でも〈一点からとなりとなりと描いていけば、いつかでき上がる〉と自分に言い聞かせて描き始めました。
 途中で休憩を入れながらも、描き終わったのは夜中の一時。七時間描いていたことになります。だんだんと出来ていく作品に、ボクも嬉しかったですが、描いているのを見守っていたスタッフが我が事にように喜んでくれていたのが嬉しかったです。その後に撤収して、スタッフの人たちは会社に帰って写したフィルムの確認をすると言い、そして、その後は会社に泊まり込みで編集作業だと言っていました。なんとも働き者の集まりだな~と感心しました。
 番組は一時間ですが、似顔絵のコーナーは一〇分くらいだそうです。そして、七時間かけて描いた風景画も早回しで二秒だそうです。たかが一〇分ですが、その番組を作る側の労力と時間、そして、いい番組を作ろうとする熱意とこだわりに、学ぶこともたくさんありました。  スタッフの方から「次回は風景画をしたいですね」と声をかけてもらいました。実現するとまた楽しいのですが・・・。

 

風景画












完成