エッセイ目次
 

No86
1996年6月4日発行


赤は血の色 三原色の国へ

 昨年12月の中頃、エクアドルのキト市郊外の森の中でSANE[サネ=日本の民間からの援助によるエクアドルの奨学組織の略称]の奨学生30名に、三原色による色づくりの授業をした。
 エクアドルは4日間滞在して、ペルーの下宿に戻り、ベットの上でぼんやりスペイン語の辞書をひいていたら、世界の国旗がカラーででていて、エクアドルの国旗を見ておどろいた。
 三原色なのだった。
 もっと早く知っていたら、あなたの国の国旗の色で、世界中の色ができるのよ、と言えたのに。
 ところで、エクアドルの隣、コロンビアもベネゼエラも、三原色の国旗なのだ。
 「あー、三原色の国旗の国には、キミ子方式を教えに行かなくちゃ」とつぶやいていた。
 第一回のキミ子方式海外写生ツアーはフィリピンだった。
 フィリピンに着くや、私が「あっ、三原色と白だ」と国旗を指さして言ったら、主催者の堀江晴美さん(『絵のかけない子は私の教師』共著者)が、笑って「キミ子さんは何を見ても、三原色しか目に入らないんじゃない?」と言われてしまった。
 そうかもしれない。ルーマニアのチャウシ エスク大統領が殺された。というのをテレビでチラリと見た時も「あっ、模様が取られて三原色だけの国旗になった」とつぶやいたのを覚えている。
 ちょっと気になると、三原色の国旗の国は・・・と調べたくなる。
 三原色だけの国旗は、ルーマニア、チャド、コロンビア。三原色に模様付きは、モルドバ、ベネゼエラ、アクアドル、アンドラ、フィリピン。
 一九七七年の六月頃、スペインとフランスの国境にある、小さな免税国アンドラに、不思議な旅をした。
 観光ビザで入国したスペインは3ケ月しか滞在できないので、旅行社に、アンドラ国ツアーを申し込んだのだった。
 一度国外へ出て、再入国して、さらに3ケ月 の滞在ビザをもらうためだ。
 約束の時間に、約束の場所で待っていたが、旅行社のバスが全然来ない。
 日本人の友人と二人、最後の手段にでることにした。同じ旅行社のバスを見つけたら、道路にとびだし、両手を広げて、通せんぼをする。驚いたバスの運転手は降りてきて、私たちの話を聞いてくれ、そのバスで、旅行会社に連れていってくれた。
 会社に着くと、担当の人が、そのツアーは希望者二人しかいなくて、キャンセルになったこと、下宿に伝えたけど留守だったので連絡がつかなかったこと、を説明してくれた。
 親切なバスの運転手さんがかけあってくれて、社長の6人乗り自家用車を別の運転手つきで出してくれることになった。
 その運転手がアンドラまでの道すがら、道端で車を待つ人をタクシー代わりに乗せ、そして一人づつから乗車賃のようにお金をとり、こずかいを稼ぎながらアンドラに着いた。
 おどろいたことに、ついたホテルが5つ星のホテル。
 ツアーで申し込んだホテルは一つ星だから雲泥の差だ。当然、食事付きで5つ星だ。
 思いっきり豪華な食事にしようと、分厚いメニューの中から、複雑な単語のものを選んだ。豚という単語だけはわかったので、豚肉を調理した料理がくるかと思ったら、豚足[トンソク]だった。大きなお皿に骨だけのような豚足2本がゴロリとある。それをナイフとフォークで食べなければならなかった。
 5つ星のホテルでの豪華なレストラン。金持ち風上品な人に囲まれて、冷や汗を流し皿の上をころがる豚足と格闘した。
 アンドラは香港のように免税国なので、国中(といっても、一つの街のような大きさ)買物客でにぎわっている。
 翌日、私たちも昼食を一時間くらいでさっさと終わらせて、買い物しようと計画していた。
 ところが、その昼食が長かった。なにしろ5つ星ホテル、簡単なメニューなどはないのだ。
 ボーイさんが一つづつ皿をさげるあの優雅な食事。ラテンの国は昼食が一番豪華だ。延々3時間、買い物をする時間は、すっかりなくなってしまった。
 そのホテルはレストランからプールが見えた。私たちは食事をしながら巨大な金魚ばちの中で人が泳いでいるのを横から眺めるようで、一風かわったホテルだった。
 泊まったことのない豪華なホテルだから、ドアの使い方がわからずトイレのドアが開かなくなってしまった。私が壊してしまったのかと恐ろしくて、フロントにも連絡できず、トイレも使わないままそのままで帰ってきた。

 さて、その国が三原色の国旗だとわかったので、又、ぜひ行きたいと思った。そして、今度は絵を教えよう。
 今、私のもっているスペイン語の辞書を見ていたら、全部で8ケ国ある。
 南米に3つ、チャドはアフリカの真ん中にある小さな国、どんな国だろう。
 8ケ国の三原色の国旗の国へ、私は3つ行っている。
 SANE委員会顧問のホセ・アルメダさんに
 「あなたの国の国旗は三原色ですよね、私の絵の描き方は三原色なのですよ」と言ったら
 「黄色は、小麦の色、太陽と黄金の色。青色は、海と空の色、あなたと思い出の色。赤は、英雄の血の色、そして人生に対しての情熱」と教えてくれた。
 「私、三原色の国旗の国に、三原色で描く絵を教えに行きたいんです。 `98年はエクアドルにまたきます」といったら「ぜひ、いらしてください」とホセ・アルメダさんは、大きな瞳を輝かせ、そう 答えてくれた。

 今年は8月15日から、トンガ王国へキミ子方式海外実践研究ツアーを10名のチームを組んで絵を教えに行きます。
 国際交流基金の助成もうけられ、国際交流助成事業となった。
 トンガの情報を得るため、マカパシフィックの又平直子さんのところに行った。その時に見せてもらったトンガのビデオの中で、三原色の旗がはためいていた。
 「エッ、トンガも三原色の国旗?」と思わず大声をあげたら違っていた。王様の旗が三原色なのだった。
 トンガ王国も三原色の国旗だったらいいのにと思ったけど、そううまい具合にはいかなかった。
 トンガの王様に、三原色で描くキミ子方式を教えたら、どんなにたのしいだろう。
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