エッセイ目次
 

No96
1997年4月4日発行


キミ子方式の絵はね、み~んな金賞なの

 3月、4月は私たちキミコ・プラン・ドウ定期講座の展覧会シーズンである。
 月に一回、一年間。10テーマを学んだ作品の中から、気に入った作品を額縁に入れて、知人、友人に見てもらう日である。そして、自分のクラス以外の作品を見られるチャンスでもある。
 展覧会のために特別には描かないで、普段教室で描き上げた作品の中から、もっとも気に入った作品を出品するのが約束である。展覧会のハガキにはその年度に在籍している全員の名前を記し、一年間の修了証明書の代わりにしている。あなたの履歴書に〈画歴〉として堂々と記入したり「毎年、グループ展しているんです」と公言して下さい。

 さて、先日、高崎教室の展覧会があり、打ち上げパーティーの席上で、小学2年生、新 たくと君のお母さんが言った。
 「たくとの友達がね、先日、家に遊びに来たの。なにしろ我が家は、たくとの姉のアリアの分も含めて、あちこちにキミ子方式の絵をズラリと貼りめぐらしてにぎやかなの。その絵を見た友達が
 『わぁ、たくと君、絵上手だね。これ、絶対、金賞になるわ』と言ったのよ。それを聞いた、たくとは
 『あのね、キミ子方式の絵はね、みーんな金賞なの』と言ったの。私それを聞いて胸がジーンとして。この子、小学校2年なのに、お姉さんにくっついて、幼児の頃から教室に顔を出して、みんなの作品を見ていたから、そんなふうに思える子になったのかなーとうれしくって」
 それを聞いて、居合わせた人は大きくうなづき「キミ子方式の絵は、下手と上手いの差はないのよね」「なるほど全員金賞だ。個性の差はでるけど。すごいなぁ、小学校2年で、キミ子方式の本質をズバリいい表して・・・」などと言い合った。
 「その友達が、今日の展覧会を見に来たの、会場に入るなり
 『あれっ、金賞どれ? 銀賞どれ?』『おかしいよ、どうして金賞や銀賞の紙がかかってないの?』と、何度も聞くの。金賞、銀賞の紙が貼ってないと不安らしいの」
 そして
 『あっわかった、この人が金賞でしょう。どうしてかって、この人は絵はがき(展覧会の案内ハガキ)になっているから。ねっ、この人の絵が金賞なんでしょう?』と、あくまでも金賞にこだわったそうだ。
 高崎教室では、年功序列で、はがきに載せる絵を決めている。金賞の意味ではない。


 そういえば、一般的な展覧会のイメージは、誰が一番上手かのコンクールなのかもしれない。私が小中学校の時がそうだった。習字も、絵画も、金紙、銀紙、赤紙が貼られていた。これらの作品の中で、これが一番優れていますよ、次は・・・という感じの序列が紙の色の変化になって表れていたのだ。そして、その紙を貼った絵を見ながら「これが金賞か、さすが」などと見たものだ。今でも、そうなのだろうか?
 「銀賞もらったことがある」とか「いつも展覧会に貼られた」などというセリフは、全員出品というキミ子方式の考えと大きく違う。
 銀賞をもらったり、展覧会に出品されたのは、あくまでも他人が下した評価によって行われた行為である。この陰には、賞をもらえず、展覧会に展示さえされない多くの人がいる。あげくに金賞をもらうために、どんな絵を描いたらいいかなどと、他人の評価を気にして自分の作品を描くようになったりする。
 絵を描くことは自分のたのしみである。気持ちよく描けて、出来上がったとうれしく思ったら、必ず誰かに見せたくなる。友人、家族、日頃気持ちよくつき合っている人達に、このうれしさを伝えたくなる。
 「おいしいものを作ったから、一緒にたべましょう」という感じで、「見て下さい。私のこの絵、ここが気に入ってるんですよ。絵を描く前には、イチゴのヘタが一つおきに形が同じなんて気づかなかったのに、気がついたんですよ」とか、「葉はやっぱり先に葉脈を描いて方が、葉の勢いがでますね」などと、その絵にたいする思いのたけをいっぱい伝えながら、友人、知人、家族に展覧会に来ていただき、絵を見てもらいましょう。
 「あなた絵上手ね。才能あるんじゃない?」と言われたら
 「誰でも絵が描ける方法で描いたのよ。あなたもきっと描けますよ」とつけ加えることを忘れないで下さい。
 〈私にはとても、こんな上手には描けないかもしれない〉という不安を取り除いてあげないと、あなたの絵を見た人は、あなたをうらやましがっても本当にはよろこんでくれないでしょう。
 自分の喜びを、他人と分かち合い、さらに自分が喜べるために、私たちはキミ子方式の絵の描き方をみなさんに伝えている。
 みなさんは、展覧会は見に来てくださる方と喜びを共に分かちあい、見に来てくださる方にとっても、絵を描くことが喜びと希望になるように説明してあげて下さい。
 なぜ、もやし一本や、イカやペンペン草一本を描くのかも。
 「キミ子方式の絵はね、みんな金賞なの」というセリフも伝えて下さい。
 私は車を運転しながら、春めいた風景を眺めながら、このセリフをつぶやくと、心の底から、あったかいものがこみ上げてきたて、ニコニコしてしまう。そして、深くうなずいてしまう。
このページのTOPへ