エッセイ目次
 

No121
1999年5月4日発行


これが絵を見る楽しさ

 昨年一年間学んできた一〇テーマの中から、自分が一番気に入った作品を選んで、額縁に入れて展覧会をしました。
 「私にも描けました展 パート1、パート2、パート3」として、駒場教室五月生の全生徒さんを三つのグループに分けての展示です。
 額縁に入れて展示するということが、始めはなかなか、みなさんにわかってもらえませんでした。
 息子の賞状の入っている額に作品を入れたり、何かのおみやげが入っていた額をつかったりと、額縁だったらなんでもいいという感じでした。
 額に入れずに、作品をそのまま画鋲でとめて展示しようとする人もいました。
 キチンとした額に入れて、自分の作品をホレボレと眺められるように、そして、額に入れた状態で、知人友人に見てもらおうということで、四月は毎年、展覧会の月にしたのです。
 「私は主婦ですから、額縁代なんてだせません」と言っていた方がいました。その方に「じゃあ、私の額に入れて展示しますね」と、額縁を貸し出して会場に並べました。
 その方は、会場に来られて自分の作品がどこにあるのか発見できませんでした。
 私が「これです!」というと、「エッ、私の作品こんなに上手だったのですか? 馬子にも衣装ですね。先生、額代払います」と言って、満足して帰っていきました。
 自分の作品を額に入れて展示する、こんな当たり前のことも、わかっていただくのには年月を必要としたのです。
 展覧会のハガキには、全員の名前を載せたので「グループ展出品」の証明書になります。
 「絵を描いている」とか「絵を教えている」という話をすると、たいてい「私の友人は絵を描いている。銀座の画廊で個展をした。」という話になり「すごいですね、その方」となるのが一般的ですが、私は「あなたも毎年グループ展に出品しているではありませんか? 銀座の画廊ではなく、駒場のキミコ・プラン・ドウで。堂々とお友達に『毎年グループ展をやっています』と言って下さい」
 初めて、私たちのグループ展を見に来られた方から手紙がきました。


 〈不思議な体験〉
 四月十日(土)「私にも描けました展PART1」見せていただきました。
 今回ほど、感動、感動、大感動したことはありません。少々大げさでしょうか? でも、本当なのです。この感動をどのように表現すればいいのか・・・。
 つまり〈日展〉とか〈有名な人の個展〉等を見に行く時、上手が当たり前、すばらしいのが当たり前、そんなことが無意識に気持ちの中にあって、その状態で絵を見ます。ですから鑑賞は、結果として〈やっぱりすごい! さすがだワ〉と、ただ感心して帰って来るのですが、「私にも描けました展」は違いました。
 自分でも、なぜかわからないのですが、見に行く前からなんとなくルンルン気分。何か楽しい気持ちで会場に入りました。
 はやる気持ちで、会場に入りますと、私が悩んだり、楽しんだりして描いた同じ題材の絵が、沢山展示されていました。そのおなじみの絵が、今回この展示場で、まるで別人のように(?)どの絵もみなステキな額に納まって、よそゆきの顔をし、少しおすまししているように見えました。だからといって決してクールではないのです。むしろとってもぬくもりを感じました。
 そして、一つ一つのどの絵もが「私を見て!」「よく見て行ってネ」といっているようでした。
 もちろん、老眼の私は一枚一枚の絵を眼鏡をかけたり、はずしたり、近くに寄ったり、離れたり。彫刻等はさわってみてもよいというお許しがありましたので、さわらせていただいたりと、いろいろ時間をかけて見せていただきました。どの作品も私はみな「満足気な顔をしている作品」に見えました。
 これは描いた方々が自信をもって、そして楽しい気持ちで描いたからでしょうか?
 今回は、私は初めての経験でしたが〈上手とか下手とかの観点で絵を見る〉のではなく、とにかくどの絵もが、それぞれに語りかけてくれているように見えて不思議な体験でした。
 とってもうれしかったです。たのしかったです。そして、本当にすばらしかったです。
 たのしい心あたたまる一日でした。九月の私たちの作品展がとても楽しみです。

 昨年十二月と一月の二ヶ月間、私は日本を留守にしていました。二ヶ月間キミ子方式の絵を見なかったのです。
 二月にキミコ・プラン・ドウの教室に行って、三原色で描いた絵を見た時「どうしてこんなステキな絵が描けちゃうの? 上手だなぁ」と、絵の前に食い入るようにして見てしまいました。私にとって不思議な体験でした。
 川越の榎本さんをはじめ、何人かの方から聞いたのですが、キミ子方式の展覧会を見に来た人は、会場で涙を流していたそうです。
 「何て、すなおな気持ちになるのでしょう。自然でいいですね」と。
 いつものモヤシ、いつものネギなのですが、やっぱり、たべたくなるのです。おいしそうなのです。そして、朝から晩まで、展覧会の会場にいる私が絵の前にいても疲れないのです。
 絵の前にいて、すなおな気持ちになり、疲れないこと、おいしそう、生き生きしているとエネルギーをもらえること、これが、絵を見る楽しさです。
 今年も五月から新学期です。自然のものを自然の成り立ちにそって描き、すなおな自分発見になり、自分の作品に惚れられるよう、一つ一つの作品を楽しみましょう。


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